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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(オ)766号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人曽我乙彦、同万代彰郎、同有田義政の上告理由について

原審の適法に確定したところによれば、上告人らが訴外株式会社摂津機械プレス製作所(以下「訴外会社」という。)の訴外株式会社三井銀行に対する借入金債務をその連帯保証人として訴外会社に代つて返済し、右債務の担保として三井銀行が訴外会社から裏書譲渡を受けていた本件約束手形を三井銀行が無担保裏書のうえ上告人らに交付したことにより、上告人らが本件約束手形の所持人となつたのであるが、訴外会社はその代表取締役である上告人和市が主宰するワンマン会社ないしは同族会社であつて、訴外会社と同上告人とは密接に経済的利害を共通にするものであり、また、上告人まり子は上告人和市の三女で、本件約束手形に関する限り同上告人と実質上も経済上も一体とみることができる関係にあるほか、三井銀行は当初訴外会社から債権を回収する方針であつたが、被上告人の申請に基づき三井銀行と訴外会社との間における本件約束手形の引渡を禁止する旨の仮処分決定が発せられたため、上告人らに右訴外会社の借入金の返済を求め、上告人らがこれを返済して同銀行から本件約束手形の交付を受けるに至つたものである。このような原審認定の事実関係のもとにおいては、本件約束手形の三井銀行から上告人らへの裏書は、信義則上、三井銀行から訴外会社への戻裏書と同一に評価すべきであるとし、本件約束手形の振出人である被上告人は、訴外会社に対抗することができる人的抗弁をもつて、善意の三井銀行の介在にかかわらず、上告人らに対しても対抗することができるものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 岸上康夫 裁判官 藤崎萬里)

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